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沖縄基地問題 そびえ立つ「ワシントンの壁」 ジャーナリスト・屋良朝博のロビー活動記

  • 2017年7月24日
  • 06:00
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米国会議員秘書に沖縄問題解決の政策提言を説明する(右から)屋良朝博、猿田佐世の各氏=米議員会館、ワシントン






 





※NDの政策提言を報じた記事はこちら


海兵隊31MEUの県外移転、辺野古新基地の代案に NDがアメリカで提言





 





<政策提言>





 政策提言は元防衛官僚で官房副長官補を務めた柳沢協二氏、中京大学の佐道明広教授(国際政治)、東京新聞論説委員の半田滋(論説兼編集委員)、そして筆者の4人が3年がかりで議論を重ねてまとめた。米軍再編による海兵隊の新配置と役割、今日的な安全保障課題について分析し、その上で沖縄から海兵隊の実戦部隊を撤退させる方法を導き出した。





 「米軍出て行け」という抗議ではなく、日米両政府に対してより良い方策を検討すべきだと提案している。辺野古埋め立てを強行すれば沖縄の民意は米軍に一層厳しくなり、極東最大とされる嘉手納飛行場の運用にも影響を及ぼし、日米関係どころかアジア太平洋地域の安全保障さえ揺るがす事態に発展しかねない、と警鐘をならしている。





 ワシントンのシンポでは半田氏と筆者、NDの猿田佐世事務局長が発表した。





 





<提言骨子>





1)再編後に残る海兵隊の実戦部隊「第31海兵遠征隊(31MEU)」の全面移転





2)日米ジョイントMEU for HA/DRを創設 (HA=人道支援、DR=災害救援)





3)高速輸送船、駐留軍経費の移転先適用





4)中国軍も含めアジア太平洋諸国のHA/DR連絡調整センターを設置








 米軍再編で海兵隊は戦闘力が4分の1に縮小され、主力はグアムへ移転することがすでに決まっている。残るのは司令部と31MEUという小ぶりの部隊だけになるが、この部隊でさえ長崎県佐世保に配備されている揚陸艦で年の半分以上を洋上展開している。艦船に隊員を乗せる場所が沖縄なので、電車に例えると始発駅が長崎、乗車駅が沖縄、目的地はアジア太平洋全域になる。再編枠をもう少し広げて、31MEUを沖縄から別の場所へ移転することは乗車駅を替えるだけであり、防衛態勢や安保体制の見直しといった仰々しい話ではない。





 31MEUは人道支援、災害救援を軸とした活動を通して諸外国との連携強化に力を入れている部隊だ。アジア諸国で国際共同訓練を企画し、フィリピンやタイで毎年定期的に開催される訓練には数十カ国が参加する。中国も近年、積極的に参加していることは日本の中ではあまり知られていない。





 冷戦後の安全保障課題を象徴するのが、「9・11」「3・11」と言われており、テロ対策、災害救援に対して国際社会の共同対処システムの構築が求められている。貧困対策、密輸、麻薬取引、感染症対策などの人道支援がテロを抑える効果が期待されるほか、災害救援が遅れると政情不安になりテロに利用される恐れもある。





 こうした全人類的な課題に取り組むシステムを日米間で構築し、31MEUが沖縄から他所へ移っても機能できるよう日本も体制を整備すべきだろう。それが「日米ジョイントMEU for HA/DR」の提案だ。





 そしてHA/DRの国際連絡機能を沖縄に置き、中国を含む諸外国の担当者が沖縄に集い、アジアの安定と平和について議論する。冷戦の残滓(ざんし)である軍事拠点としての沖縄はアジアの平和の架け橋になる。そして日本も米国の軍事的庇護に身を委ねる戦後の生き方を改めて、あくまでもソフトパワーとしてアジア安保の礎となる努力をすべきだ。











米国で普天間飛行場問題の解決策について独自案を提案する新外交イニシアティブのメンバーら=7月12日、米ワシントン






 あと一つ大事なことが海兵隊との交渉で、あからさまに言うと、金目の話だ。海兵隊は米軍再編で部隊をグアム、豪州、ハワイへ分散配置するため、輸送力の向上が急務である。そこで、日本政府は日米ジョイントMEUを支援する目的で31MEUに高速輸送船を提供する。そして海兵隊が沖縄で受けている駐留軍経費の中の提供施設整備費を移転先で使えるようにする。





 高速輸送船の年間チャーター料は約11億円、在沖海兵隊の施設整備は約30億円だ。駐留軍経費には基地周辺対策、訓練移転経費、訓練水域の漁業補償など基地の外で使う間接的な駐留経費が含まれている。基地が減れば間接経費が大幅に減り、最も経費が大きな基地従業員給与も削減される。日本にとっては船チャーター料、施設整備費の海外支出を合わせても全体のバランスシートは大幅にプラスが大きくなる。





 米軍基地が縮小すると従業員の雇用不安が起きるのは避けられない。かつて全基地撤去を主張していた大田昌秀県政は、基地従業員を県庁と市町村で採用する案を提示していた。県内の基地従業員は約9000人で、海兵隊基地に限ると3000人といわれている。基地内従業員の退職などによる自然減は毎年約200人と言われ、計画的に基地を閉鎖していけば配置転換、自治体などへの転職支援をうまく組み合わせれば、不可能ではないだろう。沖縄の労働人口は63万人で、観光業を中心に経済規模も拡張基調の今こそ、基地従業員の雇用対策をしっかり確立しておかなければならない。それは雇用行政の対応によって十分に可能だと考える。





 米軍再編によってすでに大きな基地削減が想定されている。NDの提言を前提としなくても、雇用対策は万全でなければならないはずだ。





 このように、NDの提案は日米と沖縄にWin-Winをもたらす解決策だと自負している。





 





<討論・質疑>





 シンポジウムの討論者を務めたジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授は抑止力の観点から指摘した。日米が北東アジアで懸念すべき安保問題として、「朝鮮半島情勢」「台湾海峡」「尖閣問題」の3点を挙げた。





 モチヅキ教授は、朝鮮有事への警戒は、1950年の朝鮮戦争で米軍は九州を発進拠点としたため、沖縄に海兵隊が常駐する必要性はないと論じた。台湾海峡が揉めた場合、空軍と海軍が主体となる。尖閣防衛の抑止力は一義的には自衛隊が担うべきものだが、中国にとって煙たいのは海兵隊の存在であるため、沖縄からの海兵隊撤退は慎重に議論すべきだ。緊急時に必要となる滑走路を確保する必要性も指摘した。





 モチヅキ教授はかねてから沖縄の海兵隊は大幅に縮小し、オスプレイやヘリコプターなど普天間配備の航空機を九州へ移転すべきだと主張している。沖縄には訓練に必要な数機を置くヘリポートを名護市辺野古のキャンプシュワブに設置し、普天間は有事の備えとして閉鎖、維持することを選択肢に挙げている。





 モチヅキ教授は上記の議論が日米双方の安全保障サークル(安保村のこと)を納得させるために不可欠だと強調した。合理性は別として、安保サークルの理解を得ない限り、政治的な選択肢になりにくいためだ。





 提言作成者も当然、軍事的な側面を議論してきた。沖縄は31MEUが長崎の船と合流する「ランデブーポイント」(落ち合い場所)であり、多くの時間をアジア太平洋に費やしている。落ち合い場所は沖縄でなくてもいい、という結論になる。





 有事対応では、日本はすでにガイドラインの見直しを含む様々な制度整備を実施している。自衛隊の飛行場や港湾などはほぼ使えるし、陸上輸送などのインフラは民間を含めて“徴用”できる仕組みができている。仮に有事対応に懸念があるのなら、そこを詰めていくことと、沖縄で普天間を温存する議論とは次元が違うはずだ、と私たちは主張している。





 日本の受け入れ体制に不備があるなら、そこを詰めていけばいいのであって、普天間の機能を温存することが唯一の要であるかのような議論は合理的ではない。さらには実際に起きるかどうか分からない事態に備えることが安全保障ではなく、起きないようにする営みを絶え間なく続けることで安全保障が実体化していく。私たちはそう考えている。





 東西センターの会議室に用意した椅子60席は埋まり、立ち見も出た。さまざまなシンクタンクがしのぎを削るワシントンでは日々、各種テーマのシンポジウムが開かれるだけに、まずまずの入りだったと言えよう。





 フロアからは、沖縄県知事や名護市長が反対する基地建設に対して、住民は蜂起するか、という質問が出た。筆者は「沖縄県民の米軍に対する許容度は大きく低下するだろう。辺野古埋め立てが強行されたときの反動がどのようなものかを予想するのは難しい」と答えた。











 今回のND提案とモチヅキ教授の討論で、沖縄問題の核心を炙り出すことができたと考える。海兵隊は九州でもいいし、有事を想定した備えがあれば軍事施設は不動のものではないということだ。日本政府は沖縄の「地理的優位性」「抑止力」だけを強調し、辺野古埋め立ての根拠としているが、その議論は軍事機能論で評価すれば大きな疑問符がつくことは分かっている。





 軍事空白を作りかねないという懸念に対する半田氏の切り返しは明快だった。


政府は抑止力を維持するために辺野古埋め立てを進めると言うが、米軍再編ですでに大幅縮小が決まっている海兵隊の駐留意義そのものが問われている、と主張した。再編で日米両政府が実戦兵力の実質的な撤退を決めた時点で、地理的優位論も抑止力論も現状を追認する有効な論点でなくなった。





 









 


 新外交イニシアチブ(ND)は7月12日、米ワシントンでシンポジウムを開催し、沖縄の米軍基地問題を解決する政策提言を発表した。おそらく日本側から具体策が示されたのはこれが初めてだ。また上下両院で多くの議員事務所を訪ねて政策提言を売り込むロビー活動を行った。確かな手応えを感じつつも「ワシントンの壁」を仰ぎ見るような思いがした。





 現地では米シンクタンク「東西センター」(本拠地ハワイ)が提携し、シンポの会場を提供してくれた。筆者も提案者の1人としてNDの政策提言を説明。普天間飛行場を使い、その代替施設の辺野古新基地を使い、東村高江のヘリ着陸帯を使って訓練するのが海兵隊であるから、海兵隊を県外・国外へ移転できさえすれば、辺野古のサンゴ礁は守られ、森に囲まれた高江は静寂を取り戻す。ついでに主に海兵隊が使う那覇軍港を浦添西海岸に移転する必要もなくなる。在沖米軍基地の7割を占有している海兵隊が基地問題の大元なのである。





 









 もっとも難しいのは、力による均衡を主張する日米の安保サークルと議論するチャンネルが開けるかどうかだろう。いまのところ扉は閉ざされている。NDの具体的な政策提言が双方を結ぶ役割を担うことができれば幸いだ。





 





<ロビー活動>





 国会議事堂の周りには議員会館が配置されている。議員個人の部屋があり、それぞれ10人以上ものスタッフが議員の政治活動を支えている。しかも驚くべきは、議員会館は開放されていることだ。建物入り口で荷物検査を受けるだけで入館でき、親子連れが館内ツアーに参加する。民主主義の根幹はしっかり定着している。「忖度」「隠蔽」が流行語になりそうな日本とはどうも社会の作りが違うようだ。





 そのようなシステムなので、ロビー活動は誰でもできる。建物に入ると長い廊下が回路になっており、星条旗と出身の州旗が立つ議員居室が並んである。ノックしてドアを開けると秘書が出るので、まずは「こんな問題を議員に知って欲しくて」と資料を置いていく。後日連絡して政策秘書との面談を申し入れる。「沖縄米軍基地問題です」と売り込み、安全保障を担当するスタッフが話しくらいは聞いてくれるまでが第一関門だ。





 それでも与えられる時間は15分から長くて30分程度なので、沖縄基地問題に触れたことのないアメリカ人秘書にどれだけの情報を提供できるかが勝負になる。おそらく資料を手にしたところで、それが秘書の興味関心となり、議員へレクチャーしてくれる可能性はゼロに等しいだろう。その努力を積み重ね、運がよければ議員にたどり着くことができるはずだ。





 今回もNDの猿田事務局長とスタッフは精力的に動き、20以上の議員居室でスタッフに政策提言をセールスして回った。この中で、民主党の人権派下院議員が直接面談に応じ、ほんの15分だったが沖縄問題に耳を貸してくれた。





 辺野古の海を埋め立てることの愚かさ、沖縄問題を放置することの政治的リスクを一気に猿田氏がまくし立てた。うなずきながら聞いていた議員は「沖縄の問題は理解している」と語った。続けて、「米軍へ施設を提供するのは日本政府であり、問題を処理する当事者は日本である」とすでに準備していたかのような定型の答えを返した。別の議員事務所では女性の政策スタッフが「あなたたちが行くべきは東京でしょ」と冷淡に言い放った。





 沖縄県知事や県議会、市民団体は何度もワシントンで要請行動を繰り返すが、この施設提供義務を盾にした米側のブロックに阻まれている。よしんば理解を得られたとしても、議員に「私に何ができますか」と問われると、具体策を提示できない場合もままあった。





 沖縄は国内問題だという指摘に対して筆者はこう切り返した。「日米安保条約上、施設提供義務者はおっしゃる通り日本です。他方、米軍の部隊配置を決めるのは米国政府です。海兵隊の展開方法を少し見直すだけで辺野古の海を救い、沖縄の多くの問題を解消させ、日米間の政治リスクを低減させるプランがここにある」とNDの政策提言をアピールした。





 下院議員は提言書に目をやる。横に控えていた秘書が腕時計を見ながら、「次の日程があります」とせき立てた。議員は「いいプレゼンだったよ」と言ってくれた。それだけだった。





 希望をつなぐ言い方をすれば、この短いやり取りの積み重ねが大事なのだろう。





 そして、さらに一歩、次の一歩と踏み込めるかが課題だ。予算審議のときに辺野古に関わる項目を見つけて、その詳細を政府に問いただしてもらったり、米側の環境対策を問いただしたりしてくれる議員が増えれば、辺野古を埋め立てる政府官僚への強烈な“抑止力”になるはずだ。





 そこまで到達するには目の前に巨大な壁がそびえている。風穴を開け、突破していく知恵と勇気と団結が必要なのだろう。それをどう創造すればいいのだろうか-。ワシントンから帰ってからずっと物思いに耽る日々が続いている。


 


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