
フィリピンのカリラヤに日本政府が建てた「比島戦没者の碑」で、天皇、皇后両陛下が1月29日に日本人犠牲者を慰霊された様子を、福井市の九ノ里俊一さん(80)が現地で見守った。父高男さん=享年(34)=を同国で亡くした九ノ里さんは「フィリピンが太平洋戦争の激戦地だったことを、あらためて広く知ってもらえるのではないか」と話す。両陛下が取られた行動が、戦争を繰り返さない大切さを国民全体で考える大きな契機となることを望んでいる。
陸軍に所属していた高男さんは、同国レイテ島で1945年7月に亡くなった。九ノ里さんは、同国で戦死した福井県出身者の遺族らでつくる「比島戦没英霊顕彰奉賛会」の会長を務めている。
1月25〜30日、日本遺族会の「フィリピン慰霊友好親善訪問団」の一員として九ノ里さんは3回目の現地訪問を果たし、両陛下の慰霊の場に参列した。両陛下が父を含む戦没者に花を手向けられたのを「感無量の思い。言葉にならない」と振り返る。「父は無駄死にしたのではなかった。今日の日本の繁栄の礎になったのだ」とも感じた。
これに先立ち、28日にはレイテ島で訪問団としての慰霊祭も行い、現地に眠る父に追悼の言葉をささげた。自身も高齢で「これが最後の訪問」と決めているだけに、きちんと別れを告げたかったという。言葉の最後は、こう締めくくった。「お父さん、さようなら」
訪問を無事に終えて「安堵(あんど)を感じているが、一方で悲しみもある」。2005年の前回訪問時に比べ「カリラヤの慰霊碑も汚れていたし、レイテ島に父の戦友らが建てた慰霊碑も損傷していた」というのだ。「自分たちが守っていくのは体力的にも難しい。国が何とかしてくれるとうれしい」と、国主導での保全を訴えていた。