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福島第1原発事故の賠償7兆円超 国・東電、抑制へ打ち切り方針 

  • 2015年8月23日
  • 11:18
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福島県の避難区域と賠償
福島県の避難区域と賠償

 東京電力福島第1原発事故から4年以上たった今も、福島県では約11万人が避難を余儀なくされている。事故による賠償は総額7兆円を超える見通しだ。政府・東電は膨らみ続ける負担を抑えようと、賠償打ち切りに向け動きだした。住民は被害の収束が見えないまま切り捨てられることに不安を感じ、専門家も政府・東電の方針を問題視。未曽有の大事故がもたらした巨額賠償の行方を追う。

 政府は6月、福島の復興指針を改定し、原発事故による「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」を2016年度末までに解除する方針を打ち出した。両区域の避難住民に支払われている精神的損害の賠償(慰謝料)月10万円を17年度末で、商工業者に支払われている営業損害賠償も16年度末で打ち切ることなどが示され、当面の枠組みが固まった。

 避難指示が解除されても帰還がままならない中での打ち切り方針に住民からの反発が相次ぎ、風評被害に苦しみ展望が開けない商工業者からも不安の声が漏れる。

 東電によると、原発事故による支払いは精神的損害や営業損害など個人や法人合わせて延べ229万件を超え、5兆円以上が確定した。東電は賠償の終了時期も見据え、賠償総額は7兆円余りになると見積もっている。

 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、政府の発行する交付国債を現金化し、東電を資金援助しており、援助には電力会社から機構に対する負担金も充てられている。

 賠償をめぐっては、原子力損害賠償法に基づき、事故直後の11年4月に原子力損害賠償紛争審査会が文部科学省内に設置された。同8月、原子力損害の範囲の判定などに関する中間指針を定め、賠償の基準を提示。その後、4回、指針が改定された。東電は基本的にはこの指針に沿って対応している。

 住民や事業者が東電に賠償を請求する方法は(1)直接請求(2)国の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)の申し立て(3)裁判所に提訴―の三つ。

 直接請求がもっとも一般的で、東電が用意した請求様式に従って、住民票や損害状況を証明する書類などを準備した上で請求する。早ければ約1カ月で支払いが始まるなど、比較的短期間で賠償を受けられる。

 ただ、かかった経費を証明する書類などが残っていないケースもあり、福島県田村市で有機農業を営んでいた70代の女性は「手続きが煩わしく請求を諦める人もいる。誰でも簡単に請求できる態勢が必要」と話した。

 ADRや裁判は、被害者と東電との直接交渉ではなく、仲介者や裁判所といった第三者が関与する。浪江町津島地区の住民がふるさとを奪われたなどとして、東電と国に損害賠償と原状回復を求め集団提訴を予定しているほか、栃木県の住民ら約7千人がことし6月、東電に総額18億5千万円の損害賠償を求めてADRを申し立てた。

 ことし5月には福島県内の原告団のほか、東京、神奈川、京都、岡山の4都府県の避難先で賠償を求めている原告団やADRの申立人ら計10団体が、訴訟に関する情報共有などを目的に「原発事故被害者団体連絡会」を設立。東電と国による謝罪や被害の完全賠償などを活動目標に掲げ、連携強化を進めている。

住民 置き去り懸念 請求法にも課題残る

 東京電力福島第1原発事故による賠償請求で、直接請求で示された支払額について納得できない場合、裁判外紛争解決手続き(ADR)や裁判を起こす方法があるが、費用や問題解決のスピード、法的拘束力の面で一長一短だ。

 ADRは弁護士らを仲介委員とし、東電と被害者の間で和解を目指す点が特徴。直接請求で示された回答額を上回る損害額も申し立てできる。

 「原子力損害賠償紛争解決センターの手引き」によると、申し立てを受理してから約4〜5カ月で解決することを目標としている。必要書類の準備に係る費用や交通費などを除き、原則的に手続きは無料である点もメリットだ。

 国によると、ADRの申し立て件数は7月現在で1万7千件を超え、1万1千件余りの和解が成立している。

 ただ、東電はADRの和解仲介案を尊重する姿勢を示しつつも、法的拘束力がないため、和解案に合意しないケースもある。浪江町は町が代理人となり、約1万5千人がADRを申し立て、センターが1人当たり月10万円の賠償金に5万円を上乗せする和解案を提示したが、東電側は拒否し続けている。

 「最後の手段」でもある裁判は、ADRとは別の制度。訴訟代理人の弁護士に依頼する経費など金銭的負担も軽くないだけでなく、審理は通常、数カ月に1回のペースで進められるなど長期化するデメリットがある。しかし、証拠に基づいて裁判官に賠償額の判断を求めることができる。

 賠償訴訟で原告側代理人を務める井戸謙一弁護士は「訴訟は資金力が必要という側面もあるが、裁判所に早期の仮払いの執行を求めるという方法もある。判決でADRの基準額を超えるケースが続けば、基準見直しにもつながる」と語った。

加害者主導おかしい 大阪市立大 除本理史教授

 東京電力福島第1原発事故の賠償をめぐる課題を、大阪市立大の除本理史教授に聞いた。

 ××   ×× 

 ―政府は6月、居住制限区域と避難指示解除準備区域の住民への慰謝料を、避難指示の解除時期にかかわらず2017年度で一律に打ち切る方針を決めた。解除後1年で打ち切るこれまでの方針を大きく変える決定だ。

 「解除を進めるために、解除時期と慰謝料の支払い期間のつながりを切り離した。賠償は本来、被害者の権利を回復するためにある。政策的な意図に、賠償を従属させるのはおかしい」

 ―避難区域内外の事業者に対する営業損害賠償も打ち切る。

 「原子力損害賠償紛争審査会は指針で、支払いの終期を『従来と同じか同等の営業活動が可能となった日』としている。避難区域の事業者の再開率や、風評被害を受ける避難区域外の事業者の状況を見ると、とても被害が収束したといえる状況にない。例えば、観光など福島の自然の豊かさと密接に結びついた産業では、営業の土台となる自然が事故で汚染された」

 ―一連の打ち切り方針は、原子力損害賠償紛争審査会を通さずに決まった。

 「被害者が納得できない根本的な要因は、政府や東電という『加害者』が賠償の枠組みを決めていることだ。第三者として指針を出す審査会の役割が重要だが、開かれていない。加害者主導の動きが強まり、議論の過程が不透明になる恐れがある。審査会は今後、避難や帰還の実態を踏まえ、賠償の在り方が適切かどうか、検証作業に取り組む必要がある」

 ―政府側は「自立」という言葉を頻繁に使う。

 「賠償と自立支援を切り離しているが、本来は対立する概念ではない。避難指示が解除されても、生活はすぐには元に戻らない。長く問題は続く。賠償はその欠落を埋めるためにあり、ある時期で打ち切るというものではない。『復興させる』という掛け声ではなく、現実の政策効果を評価しながら、合理的な理由があれば賠償と自立支援を続けるべきだ」

 よけもと・まさふみ 71年神奈川県生まれ。環境政策論専攻。大阪市立大准教授などを経て、13年から現職。著書に「原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか」(共著、ミネルヴァ書房)など。


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